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ゲンロン カオス*ラウンジ
新芸術校上級コース

成果展

2017

2.25-
2.26

Sat-Sun

  

ゲンロン カオス*ラウンジ
五反田アトリエ
&五反田展示室

連動企画

2017

2.22-
3.17

24days

  

都内各所

         

展覧会について

   『まつりのあとに』という展覧会タイトルは、精神科医の木村敏が提唱した3つの時間感覚、「まつりのまえ(アンテ・フェストゥム)」「まつりのあと(ポスト・フェストゥム)」「まつりのさなか(イントラ・フェストゥム)」から着想を得ている。「まつりのあと」の時間感覚とは、過去になにか「とりかえしのつかないこと」が起こり、その「罪責感」や「負債」を抱えたままの状態に留まっていることを指す。
   たとえば、2011年3月11日に起こった東日本大震災とそれにともなう原発災害は、広く私たちに、「まつりのあと」の時間感覚をもたらした。なにか大きく、重苦しい「とりかえしのつかなさ」の感覚が、直接の被災者であるか否かにかかわらず、周囲をとりまく「空気」のように震災後のこの国を覆っていたことを、私たちはまだ覚えているだろう。
  
   震災から6年が経とうとしている今、気がつけば「まつりのあと」の時間は、すっかり消え去ったかのように影をひそめている。新国立競技場問題を皮切りにはじまった東京オリンピックをめぐる議論、ネタ切れすることのない都政のスキャンダル、新安保法案と「SEALDs」の狂騒、あるいは、昨年のブレグジットからアメリカ大統領選に連なるポピュリズムの勝利、そして常にその傍らにある、慢性化したネットの「炎上」・・・・・いつのまにか、私たちの世界には「まつりのさなか」の時間が流れていた。
   しかしそれは、つい最近まで流れていた「まつりのあと」の時間が私たちに告げていた「とりかえしのつかないこと」、その「罪責感」や「負債」が解消されたことを意味しない。おそらく、今この世界は、常に終わることのない「まつりのさなか」の時間で満たすことによって、「まつりのあと」を忘却しようとしているだけなのだ。
  
   私たちは、「まつりのあと」から立ち直ったのでもなく、その傷が癒えたわけでも、そもそもの問題が解決したわけでもない。「まつりのあと」の感覚を生んでいる過去の「負債」は、現在に埋没する「まつりのさなか」の時間によっては決して解消されることはない。
   もし、今この世界にあふれる「まつりのさなか」の時間が、「まつりのあと」の時間を忘却するために求められているのだとしたら、むしろ私たちは、「まつりのあと」の時間こそを思い出すべきなのだ。

  

  

   上級コース受講生19名と主任講師の黒瀬陽平が共同キュレーションをつとめる本展は、メイン会場(ゲンロン カオス*ラウンジ五反田アトリエ)を中心する、合計9つの展示企画によって構成されている(五反田での「成果展」+8つの「連動企画」)。
   もちろん、1年の集大成をお披露目する「成果展」という形式、そして複数企画・会場による「芸術祭」方式、いや、それ以前に、毎年祝祭のように繰り返す「新芸術校」というプロジェクト自体が、「まつりのさなか」の時間を強く帯びるものであることは避けられない。
  
   しかし、8つに分割された展示・企画はそれぞれ、受講生たちが向き合う「まつりのあと」(たとえば「事故」「慰霊」「巡礼」「家族」……)がテーマに設定されている。そして、それぞれが独立した企画でありつつ、相互に緩やかな応答関係を形成することで、「まつりのさなか」の時間に「まつりのあと」の時間を侵入させようと試みるのである。
  
   今、私たちの世界が、過剰な「まつりのさなか」を求めているのだとしたら、そしてその強い時間の流れを押しとどめることが困難であるのなら、私たちは作品によって、流れる時間を二重化しよう。
   「まつりのさなか」に、「まつりのあと」を想うこと。
   『まつりのあとに』は、そのような展覧会である。

黒瀬 陽平

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